2014年02月23日

『おくのほそ道』の名文名句B


前回 前々回に引き続き、松尾芭蕉『おくのほそ道』から名句をお届けいたしましょう。




現在の山形県に入った芭蕉は、歌枕としても有名な最上川(もがみがわ)に出ます。

ここでも有名な句を残していますね。

■五月雨(さみだれ)をあつめて早し最上川

五月雨」とは、「五月の雨」と書きますが、旧暦ですので……
今では6〜7月頃の長雨、すなわち「梅雨」の長雨のことをいいます。

降り続く雨に水かさが増し、最上川の流れも速くなっていたのでしょう。

最上川はもともと日本三大急流の一つに数えられております。

とはいえ、他の二つ(富士川・球磨川)と比べると、
それほど急なわけではないそうですが……



そこから、芭蕉は、出羽三山と呼ばれる羽黒山、続いて月山(がっさん)、湯殿山に登ります。

ここでは月山を詠んだ句を一つご紹介しましょう。

■雲の峰幾つ崩(くづれ)て月の山

たくさんの峰のように見えた昼間の入道雲が、いくつも消え、
今はその名の通り、月山に月が照っている…… そんな様子を詠んだ句ですね。

なかなか美しい句だと思いませんか?



そこから、酒田に出た芭蕉は、その地でこんな句を詠みます。

■暑き日を海にいれたり最上川

日中は暑い日だったのでしょう。

でも、日本三大急流の一つ、最上川の流れを間近にすると、とても涼しげに感じる。
まるで最上川が暑い太陽を海に流してしまったようだ……

ちょっとおかし味がありながら、壮大な気分にもさせてくれる句です。



さて、『奥の細道』というと、「奥州=東北」の旅、というイメージがありますが、
ここから芭蕉は新潟北陸へと足を延ばします。


越後路では、こんな名句も出てきます。

■荒海(あらうみ)や佐渡によこたふ天河(あまのがわ)

荒波が立つ日本海を眺めやると、遠く佐渡島が見え、
その上には天の川が、天空を横たわっている……

壮大で、かつ美しい句ですよね。

さらにこの句が詠まれたのが、七夕の頃だと思うと、
ロマンチックな句にも思えてくるのです。



次に泊まった宿には、一間隔てて、遊女の一行も泊まっておりました。
ここで詠まれた句が……

■一家(ひとつや)に遊女もねたり萩と月

前半は問題なさそうです。
問題は最後の「萩と月」ですね。

庭の萩に月が降り注いでいる状況を詠んだのは間違いないでしょう。
それだけでも、美しいですよね。

ただ、それだけではなさぞうで……

萩と月

それぞれに何かを象徴しているようです。

「萩」が芭蕉? 「月」(=遊女)がやさしく照らしている?

あるいはその逆でしょうか?

それとも? 
庭の萩にも、芭蕉にも、遊女にも、等しく月が照っている……との意味でしょうか?
萩は遊女のことで、それを優しく月が照らしている、とする解釈もあるようです。

ならば「萩に月」とかでも良さそうなのに、「萩と月」…… なのですよね……


結論はここでは出しません。というか、出せません……。

いろいろな解釈が成り立つ、あるいはいろいろな思いを人に抱かせる、というのも
名句であるからなのでしょう。



その後、芭蕉は北陸へと足を延ばし、石川県小松市では

■むざんやな甲(かぶと)の下のきりぎりす

などの名句を残しています。

小松市の神社に収められた齋藤実盛の冑(かぶと)を見て、
その往時の活躍非業の死を思い、詠んだ句です。

きりぎりすが、この武者のことを思い、鳴いている(泣いている)ように思えたのでしょうか?

それとも、戦いの時代を過ぎた、平和の象徴としての虫の声なのでしょうか?

冑の下で鳴く虫に、武将の霊を感じる、とした人もいるようです。

単に、実景を詠んだもので、しみじみとした風情を味わう句だともいえるでしょう。

さまざまな解釈を味わうことができますね。



やがて芭蕉は福井から岐阜大垣へと進み、この地で、親しき人の歓待を受けます。
翌日、これらの人々と別れ、船に乗り込み、『おくのほそ道』最後の句を詠みます。

■蛤(はまぐり)のふたみにわかれ行(ゆく)秋ぞ

蛤が蓋と身とに分かれるように、人はふたつに別れなければならない時がくる。
時まさに秋も暮れようとする、物悲しい時期である。

親しき人々との別れとともに、物語の最後としての、お別れの意味も込めて詠んだのでしょう。


以上の句を最後に、三回にわたりお送りした『おくのほそ道』の名文、名句の特集も
ここでお別れとしたいと思います。ありがとうございました。



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posted by 慈文字心 at 15:07| Comment(0) | 古文(日本) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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